家族介護者の負担軽減と追加就労促進を

· Social Issues

80年代から議論に上り、消えては再び現れる年収の壁が、ようやく動き出しそうです。少子高齢化に伴う労働力不足が今後さらに加速する日本において、就業抑制圧力となっているこの問題の解消は急務です。

00年代中盤まで90時間台後半だった有配偶パート労働者の一人当たり月間総労働時間が、70時間台にまで減少している背景には、年収の壁があるのは明白です。例えば、466万人とも推計される就業調整中の有配偶パート女性が気兼ねなく働けるようになれば、日本経済にとって間違いなくプラスとなるでしょう。

しかし、同時に「働きたくても働けない」人々の存在も決して忘れてはなりません。年収の壁が解消されたとしても、例えば家族の介護をしている人々にとっては、追加就労が容易ではない現実があります。

現在、家族介護者は全国に650万人以上おり、20年前の400万人台から約40%も増加しています。圧倒的に女性比率が高い(約7割)のは、夫が妻に親の介護を任せているためでしょう。

過去20年間における有配偶パート労働者の労働時間減少には、年収の壁だけでなく、この家族介護者の急増も複合的要因として影響しているとは考えられないでしょうか。

いずれにせよ、年収の壁の解消に加え、家族介護者の増加という問題を緩和(負担軽減、就労機会創出)することができれば、日本経済に対する正のインパクトはさらに大きくなるはずです。

少子高齢化と人口減少は、(戦争や疫病、政策的要因を除けば)人類が初めて直面する課題であり、これに伴う家族介護の急増も、経路依存性に陥っている限りその本質的な解決は難しいと考えます。介護が社会的に尊重される文化と、社会全体で負担を分かち合う仕組みを、既存の枠組みに囚われない新たな発想で構築していくことが重要となるでしょう。

例えば、介護参加を社会的義務化するのはどうでしょうか。すべての成人が一定時間、介護活動に参加する義務を負うことにするのです。また、企業や学校が全従業員や学生に対して「一定期間の介護参加」を義務付けることで、介護が社会全体の問題であるという認識を根付かせることができるかもしれません。

「介護ポイント制度」の導入も有効でしょう。介護負担を社会全体で分担するために、介護に貢献した人々に対して社会的インセンティブとして交換可能なポイントを付与するのです。これにより、社会全体で介護を支える文化を育んでいけるはずです。

段階的な対策としては、完全自立型の介護共同体「介護都市」の建設なども考えられます。都市全体を介護と福祉に特化して設計し、全住民が介護に関する役割を持つのです。そこではAIやロボ、遠隔医療等の介護技術を全面的に導入します。都市全体の運営をAIとデータで最適化し、効率管理すれば、地域全体が介護を支え合う「エコシステム」として機能させることができると考えます。

昨年、両親ともが急に要介護状態となってしまった私にとって、介護問題、家族介護者が働けない問題は、まったく他人事ではありません。2029年以降に人間の寿命は毎年1年ずつ伸びていくとの予測もある中で、家族介護の負担を減らし、介護離職を防ぎ、さらにヤングケアラーなどの問題に対応するための抜本的な施策を、官民ともに知恵を出し合いながら産み出していければ幸いです。

皆さま、良いお年をお迎えください。

BBDF 藤本