いきなり本題に入ります。最大の問題は、「日本語能力の低下」です。
最近、長文が読めない人が増えていると感じたことはありませんか?
2000年代後半、新聞を読む人が激減し、短文投稿が特徴のSNS(*1)が急速に普及し始めました。この影響で、社説レベル(1500~2000文字)の長文を読むのが苦手な人が増えたと言われています。※ちなみに今回のブログは、注釈を含めて約1800文字、前回は2500文字ほどあります。
さらに、国立情報学研究所(NII)の新井紀子氏が率いるチームによる全国2万5000人を対象にした読解力調査(2016年)では、日本の子どもたちの多くが「文章の意味を正確に理解する力」、つまり「読む力」を十分に持っていないことが明らかになりました。同氏は、この傾向が続けば最悪の事態(恐慌)を招くと警告しています。※詳しくは新井氏の著書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』をご参照ください。(*2)
デジタル化の進展に伴う読書習慣の衰退は現在も続いています。さらに、思考力を問わない画一的な教育も相まって、複雑な文章を理解し、論理的に考える力を養う機会が大きく不足しています。
何事も、「インプットが先、アウトプットが後」です。「書く力」は「読む力」なくして成り立ちません。文章を読むことで身につく語彙や文法、論理的構成が、書く力の基盤を形成します。
前回も述べたように、日本は「人口減少」という人類史上初の課題に直面しています。その解決にはAIの活用が不可欠であり、AIが正確な応答や結果を提供するには「明確で具体的な」プロンプトが必要です。しかし、正しい日本語を使える人が減り続けているのが現状なのです。
AI活用を妨げる要因としては、電力や半導体の確保、企業データの分散、AI人材の不足、経営層の理解不足、法整備の遅れなど、さまざまな問題が挙げられます。しかし、最大の課題は「日本語能力の低下」に他ならないと考えます。
「国語を疎かにすると、国が滅ぶ」。少なくとも、経済や社会全体に悪影響を及ぼすリスクがあると言えます。
この問題を解決するには、学校教育の改革が必須です。特に、以下のような対策が考えられます:
○長文読解力の強化
文章の構造や文脈を理解する力を養う授業を増やします。教科書だけでなく、多様なジャンルの文章を扱い、幼少期から幅広い表現に触れさせることが必要です。古典文学(例:『日本書紀』や『古事記』)を通じて、日本語表現への興味を高めることも有意義でしょう。
○作文とディベートの導入
自分の意見を正確に伝える訓練として、作文やディベートの時間を充実させます。AIを活用すれば、生徒ごとに苦手な部分を特定し、読解力や語彙力を補強するカスタマイズ学習も可能でしょう。
○受験制度の見直し
長文読解や記述式問題の比重を増やすことで、考える力を求める試験に移行します。理系・文系を問わず、読解力が重要な時代になっています。
○大人にも日本語学習の機会を
大人の日本語能力向上も欠かせません。社会全体で「何を言っているかわからない」大人が多い現状を変える必要があります。大人が正しい日本語を使い、模範を示すことで、次世代の子どもたちの成長を支えられるはずです。
○参考:フィンランド式教育の取り組み
世界的に高い学力成果を誇るフィンランドでは、読解力を重視した教育が行われています。読書と議論を融合させた授業は、日本でも参考になるでしょう。フィンランドの教育制度は、日本と異なる前提条件(例:教師全員が修士号取得者)がありますが、そのカリキュラムには学ぶべき点が多くあります。(*3)
AIが我が国の発展において重要な役割を果たす時代、「正しい日本語」を使える力が成功の鍵となります。そもそもAIは人間を補助するツールであり、人間はAIを使いこなす側に立ち続ける必要があります。そのためにも、人間固有の能力としての「日本語能力」を鍛えることが重要です。このブログも各位より誤植の指摘をいただきつつ(笑)、その重要性を再認識しています。
自省を込めて。
BBDF 藤本
*1:ご存じの通り、Twitter(現X)の文字数制限は140文字です。
*2:Amazonリンク
*3:フィンランド教育省リンク