江戸時代末期に約3,300万人だった日本の人口は、明治維新後の産業革命によって急増を始めました。
その後も、医療技術の発展や栄養状態の改善、戦後のベビーブームや社会福祉制度の整備などを背景に(太平洋戦争時に減少したとはいえ)増加し続け、1億2,800万人(約4倍)という驚異的な数値に達しました。これは、たった130年という短期間での出来事です。
しかし、この人口急増も2008年をピークに終焉を迎え、現在では急減に転じています。心臓破りの上り坂の後に来るのは、当然心臓破りの下り坂です。
これまで我々日本人は、ひたすら上り坂を登る筋肉だけを鍛えてきたように思います。ジョギングに例えると、脚を上げる動作が多い上り坂では、大殿筋(お尻の筋肉)や脊柱起立筋(背中の筋肉)が強く使われます。
しかし、下り坂でバランスを保つには、脛骨前筋(すねの筋肉)や中殿筋(お尻の横の筋肉)をしっかり動かすことが必要です。これらを鍛えなければなりません。
つまり、上り坂と下り坂では使う筋肉に違いがあるのです(翌日に筋肉痛が発生する場所が異なることからも分かります。もちろん、大腿四頭筋やハムストリングス、腓腹筋・ヒラメ筋など、走る上で必須の筋肉も多いですが、それだけでは対応できません)。人口急増期を上り坂、急減期を下り坂に例えると、それぞれで使う筋肉(能力や才能、スタンス)が違うのです。このことに注意しなければなりません。
人口急増期は、成長と拡大の時期です。この時期に特に必要な筋肉は、例えば以下のようなものです。
- 強力なリーダーシップ:チームや組織を導き、目標達成に向けて動かす力。成長を促進する能力。
- 成長適応力:急速な成長・拡大に対応し、新しい状況に適応する能力。
- 長期的戦略的思考:長期的な視点で計画を立て、実行する能力。
一方、人口急減期には、持続可能性と効率性が求められます。この時期に特に必要な「筋肉」は、以下になります。
- 効率的な資源管理:AIなどを活用し、限られた資源(人的資本を含む)を最大限に活用する能力。
- 問題解決能力:複雑で不確実な問題を分析し、効果的な解決策を見つける力。
- レジリエンス:環境や社会の持続可能性を考慮した行動を取りながら、困難に対して柔軟に対応し、回復する力。
コミュニケーション能力や論理的・批判的思考などは、いずれの時期にも共通して絶対的に必要なものでしょう。
人口の増減に応じて必要とされる筋肉(能力やスタンス)が変わることを認識し、社会全体の適応力を高めることが重要です。人口急増期の成功体験にこだわり過ぎると、人口急減期には思わぬケガを招く恐れがあります。上り坂と同じ感覚で下り坂を下り始めると、予期しないケガに見舞われる可能性が高いのです。
「人生下り坂最高!」
これは、NHKの「にっぽん縦断 こころ旅」の中で、火野正平さんが残した名言です。状況の変化をポジティブに捉える、彼の姿こそが理想です。私たちも、「最高!」と言えるように、「今、必要な筋肉」を常に再定義(アップデート)して行きましょう。
箱根で健闘する後輩たちの姿を眺めながら、記しておきます。
BBDF 藤本