■続々と「無意味化」する、人間の「Can」
AIの進化はめざましく、毎日のように何かしら驚かされる出来事があります。この指数関数的な進化速度を考えると、4年後に予測されているAGI(汎用人工知能)の登場が前倒しされる可能性すらあるかもしれません。AGIとは、人間によるあらゆる知的作業を学習、理解し、模倣できるAIを指します。
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現状、AIにより代行可能な人間の知的作業の種類は、加速度的に増え続けています。これにより、人間がこれまで「自分たちの能力」としてカウントしてきた多くの作業が、「Automatable(人間がする必要のないもの)」として再定義されつつあります。履歴書に書けば目を引いていたような経験やスキルでさえ、今や「Dispensable(人間には不要なもの)」と見なされることが増えてきています。
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そして、4年後のAGI登場が現実となれば、オフィスワークを中心とした多くの仕事が「Automatable」や「Dispensable」となり果てる可能性があります。この究極のパラダイムシフトは、遠い未来の話ではなく、ほんの数年後に現実となるのです。私たちはこの事実を真摯に受け止め、今から「準備」を始めなければなりません。
では、どのような「準備」が必要なのでしょうか?
■ケインズが予測した「100年後の人間」
イギリスの経済学者J.M.ケインズは、1930年に発表した『Economic Possibilities for our Grandchildren(我々の孫たちの経済的可能性)』の中で、次のような未来を予測しました。
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- 技術革新と資本蓄積により、100年後の生活水準は1930年当時の最大8倍に向上する。
- 週15時間の労働で、必要なものが手に入るようになる。
- 自由時間の増加により、人々は社会システムや生き方について深く考えるようになる。
- 100年後の人類の課題は、「いかにして賢明、快活、健康に生きるか」になる。
このうち、生活水準の向上については驚くほど正確です。先進諸国における1人当たり所得は、1930年当時の約8倍に達しています。しかし、労働時間の大幅な短縮や自由時間の増加、思考の深化といった予測は、現時点(2025年)では実現していません。
その理由としては、以下の要因が考えられます。
- 欲望の多様化と拡大:
-ケインズが想定した「満足水準」を超える新たな欲望が生まれ、労働時間が減らない - 経済格差の拡大:
-富の分配が不均衡で、一部の富裕層に集中しているため、多くの人々は働き続けざるを得ない。 - 生産性向上の恩恵が労働時間短縮に繋がらない:
-技術革新の成果が企業の利益や競争力強化に偏り、労働者には還元されていない。 - 労働を美徳とする文化:
-長時間労働が社会的な価値観(アイデンティティや地位)と結び付けられ、根付いている。
これらの要因が複雑に絡み合い、ケインズの予測する「野に咲く百合のような存在」には未だ到達していないのです。しかし、1930年からちょうど100年後となるのは2030年であり、あと6年あります。そう、2029年にAGIが登場すれば、ケインズの予測が現実となる可能性も高まるのです。
■一大パラダイムシフトに向けた「準備」
私たちが今行うべきことは、この4年後に起こるであろう「パラダイムシフト」に備え、「労働」と「人間の在り方」、さらには社会システムについて主体的に考え、再定義することです。この準備を怠れば、AGIが生み出す膨大な生産性の恩恵も活かせず、自由時間の獲得は永久に先延ばしされてしまうでしょう。
以下の2冊は、このテーマについて考える上で大いに参考になります。
1. ジョルジュ・バタイユ『呪われた部分』
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フランスの哲学者ジョルジュ・バタイユは、本書で有用性から至高性(役立つかどうかに関わらず価値のあること。例えば「無駄」も含まれる)への価値観の転換を提唱しています。
2. ハンナ・アーレント『人間の条件』
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ドイツの哲学者ハンナ・アーレントは、労働を人間の本質ではない「最低のもの」と位置付け、労働が人間を人間たらしめる「仕事」(ここ、少々ややこしいのですが、彼女の定義によると芸術等のこと)や「活動」(人と人との間で行われる行為のこと)を押しつぶしつつある現状を憂いています。曰く「人間が動物化している」と。
これらはいずれも「人間とは何か」を問う内容であり、AGI登場を目前にした今こそ、私たちが真剣に考えるべきテーマです。
■経路依存性からの脱却と「AI時代の明るい未来」
そもそも「労働=美徳」という考え方がいつから広まったのかを調べて行くと、その起源には「勤労道徳」という強迫観念の植え付けに「拷問」があることが分かりました。果たしてこれを理想や崇高な概念と呼ぶことができるでしょうか?
私たちは、労働が美徳とされてきた歴史やその背後にある価値観を見直すべき時に来ています。AIの進化は、人間が「本質」に向き合い、「賢明、快活、健康」に生きるための最後のチャンスとも言えます。
そして、そのチャンスを掴むためには、我々人間が、未来に向けた明確な意思を持つことが前提となります。意思がなければ道は開けません。人間の本質的な価値とは何か――これを考え、方向性を定めることでのみ、AGI時代における真の豊かさを実現できるのではないでしょうか。
もはや「これまでどうだったか」を参考にすることはできません。目の前に迫る究極のパラダイムシフトは、そのような経路依存的なスタンスでは乗り越えられないのです。AGIの登場を見据え、「自分は、人間はどうなりたいのか」を、「労働」と「人間の在り方」という観点から深く考え、結論を出すことが求められています。
…などと、一時期月間残業時間が300時間を超えていた私が書いてみるテスト(笑)
次回、「AGI時代の人間の在り方」について、さらに掘り下げて考えていきます。
BBDF 藤本