MBOの終焉と、ノーレイティングが導く未来の人材マネジメント

VUCA×AI時代に最適化されたパフォーマンス評価の在り方

· マネジメント,人材,組織

ご存じの方が多いでしょうが、MBO(Management By Objectives:目標管理制度)という、「上司と部下が一緒に目標を決めて、その達成度で評価する仕組み」があります。

上司と話し合って目標を設定し、目標に向けて動き、期末に振り返って達成度を評価する(どこまで達成できたかで給与が決まることも多い)、というものです。一言でまとめるなら「目標達成を軸にした、人と組織のマネジメント法」ということになるでしょう。

「自分が決めた目標」だから頑張れる(はず)、目標がはっきりしているから、公平に評価できる(理想)、というポイントに立脚して長年使われ続け、日本企業の78.4%がいまだに導入しているようです(出典:労務行政研究所「人事労務諸制度の実施状況」2022年)。

そもそもこのMBOは、今から70年以上も前に、経営学者ピーター・ドラッカー氏が著書「現代の経営(The Practice of Management)」(1954年:Amazonリンク)の中で提唱したマネジメント手法なのですが、「そんな昔に開発されたメソッドが本当に今の時代に通用するのか?」と、(素直に)思いませんか?

MBOのよくある問題点

MBOを実際にやっている人からは、次のような声を良く聞きます。皆さんもこのようなことを感じることが多いのではないでしょうか?

  1. 目標設定に関する問題
    ・目標を立てた時点から世の中が変わってしまう。
    ・「失敗すると評価が下がる」不安から、高い目標にチャレンジしたくない。
    ・目標達成のためだけに動くようになり、柔軟さがなくなる。
  2. 日常業務への影響
    ・期中に発生した重要案件が「目標に入ってないから」とたらい回しにされる。
    ・評価レポート作成に追われ、本来の仕事が二の次になる。
    ・マネジャーは期末になると部下の評価だけで手いっぱいになる。
  3. 評価基準や運用の課題
    ・結局上司の感情に評価基準が依存しがちで、そこから信頼関係の亀裂が生じることもある。
    ・評価のための「作業」になりがち。
    ・正当な評価を受けられていないと感じ、生産性が下がる。

このような仕組みを、なぜ後生大事に運用し続けているのでしょう?「あのドラッカーが作ったものだから」だとすると、思考停止も甚だしいと言わざるを得ません。

MBOが生まれた背景(1954年当時の時代)

このメソッドがドラッカーにより提唱された1950年代前半は、「安定・成長・大量生産」の時代でした。経済は高度成長期にあり、大量生産・大量消費が進み、「いかに効率的に利益を最大化するか」が企業のテーマでした。

当時の企業モデルは完全な「ヒエラルキー構造」です。明確な組織図と指揮命令系統があり、トップダウンの意思決定がなされていました。

そして、ここが一番重要なのですが、当時の仕事は「繰り返し型・予測可能」なものが中心でした。工場の生産ラインなど、定型業務が主で、目標と結果が直結しやすかったのです。

また、競争相手も明確であり、競争環境は比較的シンプル、製品の差別化で勝てばOKだった時代でした。

つまりMBOは、特に製造業における「安定した環境」で、目標が「予測可能な未来に向けて計画的に達成できる」という前提で作られた仕組みだったのです。

日本における「評価・効果」の歴史

○戦前
1900年代前半の日本では、実は転職が当たり前だった、というのはご存じでしょうか?熟練工になると、より給与の高い職場に転職する「実力主義」が普通であり、「労働の流動性」が高かったのです。報酬は「スキル」と「成果」で決まることが多かったのは、工場制手工業から工業化への過渡期において、企業が「即戦力」の技能者を求めたことが大きいのではないかと考えます。

○戦後
しかし太平洋戦争終結後、戦争による貧困と混乱を経験した労働者が、生活の安定と保障を求めたために、例の「終身雇用」と「年功序列」が導入されることになります。企業が長期的雇用の保障を提示したのは、経済復興のため、従業員の安定確保と人材育成を重視したからでしょう。それと同時に、特定職務に対して採用するのではなく、「会社に属する人材」として雇い入れ、異動・転勤も辞さない「メンバーシップ型雇用」も定着して行ったものと考えられます。

○高度経済成長期
終身雇用と年功序列が組織の安定を引き続き担保する中で、成果は「集団」で出すものとされ、チームワークと集団主義が強調されるようになりました。この時代は、「個人の成果」より「組織の成果」を重視したのです。また、明文化された評価制度はまだなく、上司の属人的な判断により「阿吽の呼吸」で評価されていました。労働組合が強い影響力を持ち、定期昇給や賃上げ交渉を通じて、評価(と報酬)は「全体最適」が基本でした。「人を育てるのは企業」「忠誠心を持つのは社員」という暗黙の契約が成立していた時代ともいえます。

○バブル崩壊後
1991年のバブル崩壊により、人件費削減圧力が高まり、日本企業は「年功序列の維持が限界」と認識することになります。ここで「年齢ではなく成果で報酬を決めよう」という流れが出てきて、MBOはその文脈で導入されることになりました。米系企業が先行していたMBOをべースにした成果主義評価を日本企業(ソニー、トヨタ、日立など)が導入し始めたのです。1990年代後半には「年功序列から成果主義へ」が経営トレンドとなっています。

○2000年代
過度な成果主義が、組織の分断・協力意欲の低下・短期成果偏重を招くようになりました。MBOは「目標のための目標」「ノルマ化」していきます。実際の業務の流動性やイノベーションの必要性に対して、硬直的な目標設定が機能不全に陥ってきました。フィードバックが形骸化し、「年1回の評価」のための制度に後退。柔軟性や即応性に欠けるマネジメントが問題視されるようになりました(ほんの一部で)。

○現代
AI・デジタル化により「人間の役割」が激変し、創造性・共感力・柔軟な対応力が求められる時代になっています。本当に形骸化したMBOを運用し続けていて問題はないのでしょうか?

日本の「メンバーシップ型雇用」とMBOの根本的な矛盾

日本型「メンバーシップ型雇用」とは、「人」に仕事をつける雇用形態です。「企業に属する人材」として広く採用し、どんな業務にも従事してもらう前提の雇用モデル。一方でMBOとは、「仕事」に人をつけるマネジメント手法です。目標達成に責任を持つ個人を特定し、結果(アウトカム)によって評価します。

○矛盾①:職務があいまいなのに、目標はどう決める?
メンバーシップ型では「何でもやる」前提で人が動く一方、MBOは「明確な役割と責任」に基づいて目標を設定します。結果、目標を定義すること自体が困難になります。目標が「ざっくり」「とりあえず」になり、形骸化するのです。

○矛盾②:成果が見えづらいのに、どう評価する?
チームで動く文化が強く、「誰の貢献か」が曖昧です。個人評価をすると「和を乱す」ことになり、評価がやりづらくなります。結局「全員横並び」や「評価に差がつけられない」事態になります。

○矛盾③:年功序列と成果主義のねじれ現象
MBOで成果を上げても、年功的な処遇ルールが残っていれば、報酬や昇進に直結しません。若手のやる気は削がれ、成果主義と年功主義のダブルスタンダードに社員が混乱します。

○矛盾④:変化への適応 vs 固定目標の硬直
メンバーシップ型は環境変化への柔軟対応ができますが、MBOは「設定した目標にコミットすること」が評価されます。目標の硬直化が変化対応を阻むことになります。

実はドラッカーも懐疑的だった日本企業のMBO導入

ドラッカーは著書「断絶の時代(The Age of Discontinuity)」(1969年:Amazonリンク)や「マネジメント(Management)」(1973年:Amazonリンク)で、日本企業の「終身雇用」「年功序列」「企業内教育」「社員の忠誠心」を、「社会的責任を果たす経営」として、ポジティブに評価していました。

その上で、自身が提唱したMBOは、あくまで「個人の責任と成果」を明確にする制度であり、日本型経営の「集団貢献」「曖昧な責任分担」には適用が難しいと述べていました。例えば「ポスト資本主義社会(Post-Capitalist Society)」(1993年:Amazonリンク)の中で「日本は依然として組織に帰属し、個人の成果より組織の成果を重視する文化を持つ」と分析し、「責任の分担が不明瞭な日本型集団主義は、成果を個別に明確にすることが難しい」という趣旨のことを語っています。また、「断絶の時代(The Age of Discontinuity)」(1969年)でも日本型経営を紹介しつつ、「異文化によって経営の仕組みは変わる」と述べています。欧米と日本は組織に対する人々の期待、責任感が違うため、欧米の方法(MBO含む)がそのまま通用しない、と説明しているのです。

ドラッカー自身が懐疑的だった日本企業でのMBO、いつまで続ける気でしょうか?

現代のビジネス環境(VUCA時代)

現代は予測不可能、所謂「VUCA」と呼ばれる時代です。

Volatility(変動性)
Uncertainty(不確実性)
Complexity(複雑性)
Ambiguity(曖昧性)

このような時代においては、予め立てた目標が、すぐに無意味になってしまいます。半年後どころか、1ヶ月後に前提が崩れている、なんてこともしばしば起き得るでしょう。

よって、長期計画よりも、「いま、何が起こっているのか」を素早く察知し、動くOODAループ、つまり「柔軟性・即応性」が求められています。

また、課題が明確でない、ゴールの場所すら分からないことも多いのではないでしょうか。

そして、昔のように個人プレーが通用する時代ではなく、(社内外含めた)チームによる「共創」「協働」が基本となっています。

このように予測が困難な環境下では、静的な目標とその達成度を指標にするMBOは機能不全に陥るのです。

MBOが(特に)VUCA時代に合わない4つの理由

  1. 目標の硬直性
    最初に立てた目標を期末まで追い続けるのは、変化への適応力を損なう要因となります。アジャイル型(*)に比べてスピード感が当然鈍ります。
    * アジャイル型:計画を細かく区切り、確認しながら進める柔軟な進め方のことです。従来のウォーターフォール型(計画通りに進める)とは異なり、小さな単位で仕事を進め、成果を確認しながら方向修正していくプロセス(イテレーション)が特徴です。
  2. 過去志向
    MBOは「過去の目標に対して達成できたかどうか」を評価するものです。現在の状況に即した評価ではなく、環境変化への適応度が評価されにくいと言えます。
  3. 個人主義に偏る
    MBOは「個人の目標」にフォーカスしがちなため、組織横断的なチームワークや、組織全体への貢献が見えづらくなります。そのため、サイロ化(縦割り)を助長する危険性が高まります。
  4. 短期成果への偏重
    目標達成の圧力が強いと、短期的な成果を追いがちになってしまい、持続的な学習・成長や、リスクを取ったチャレンジの抑制につながります。

MBO時代の終焉(GEの例)

GE(ゼネラル・エレクトリック:コーポレートサイト)は、MBOや成果主義の“総本山”とも言える存在でした。特にジャック・ウェルチ時代のGEは、MBOの徹底運用によって、世界中の企業に強い影響を与えました。

GEは、年次評価で従業員を「A・B・Cの3ランク」に分け、Cランクの下位10%は毎年解雇したのです。この「20-70-10ルール(Aが20%、Bが70%、Cが10%)」は世界中に広まり、成果主義・MBOのアイコン的存在になりました。

しかし、2016年にそれらを全撤廃し、まったく新しいパフォーマンスマネジメントに舵を切っています。この変化は「MBO時代の終焉」とも言える、象徴的な出来事だと言えます。

年1回のレーティング(ランク付け)を廃止し、継続的なフィードバックとコーチング(対話)を中心とする制度へ移行しました。新制度の名前は「PD@GE(Performance Development at GE)」というそうです。モバイルアプリ「PD@GE」を活用し、マネージャーと社員がリアルタイムに目標を調整しながらフィードバックを行うのです。

30年以上続けたMBOを廃止した理由は、次の4つだと言われています。

  1. 時代が「変化とスピード」を求めているから
    「年1回や半年に1回の目標設定と達成度評価」だと、市場の変化に対応しきれない
  2. イノベーションや協働を阻害していたから
    ランク付けによる「個人評価」で失敗を恐れるように且つサイロ化(縦割り組織)を助長した
  3. 若い世代の価値観とミスマッチだから
    若いタレントを惹きつけ、維持するには、より「リアルタイム」で「共感的」なマネジメントが必要
  4. デジタル技術の進化が可能にしたから
    ITインフラが整ったことで「リアルタイム型評価」が実現した

実はドラッカーは「時代の変化」も認識していた

ドラッカーは後年、「知識労働者」の増加や「変化が常態化した社会」について語る中で「成果を測るのが難しい知識労働者に、MBOはどう適用すべきか?」と問題提起もしていたようです。つまり、ドラッカー自身が「MBOの限界」を意識し、アップデートを模索していたとも言えるのです。

そして、AI時代へ

AIが定型業務・ルーチンワークを代替する中、人間の役割は「予測不能な課題」や「創造的な仕事」にシフトしつつあります。AIは答えを出す。人間は問いを立てる。「答えのない問い」と向き合い、試行錯誤を繰り返すことが人間の仕事になるのです。「目標達成型」のMBOは、AI時代の人間の仕事の実態に全く合いません

○MBOが陥る「AI時代の弊害」

AIが管理者の役割(データ分析・進捗確認)を担うなら、人間のマネジメントは「信頼」と「支援」が軸になるべきです。しかしMBOは「数字」と「評価」に寄り過ぎています。AI時代の人材は「内発的動機付け」が最大の武器になります。「ノルマ」や「レーティング」ではなく、「自己成長とチームへの貢献」がドライブするのです。MBOの「達成or未達成」という二元論は、AI時代の人間の仕事を矮小化するものと言えるでしょう。

AI時代のあるべき評価の姿、「ノーレイティング」

ノーレイティングとは、ランク付けやスコア評価を廃止してしまう画期的な手法です。

年次評価的な悠長なモノではなく、「継続的・リアルタイムなフィードバック」「対話(ダイアログ)」を重視します。評価者(マネージャー)は「成長の伴走者」「コーチ」になり、評価の目的は「管理」ではなく「成長支援」です。結果よりも「プロセス」「行動」「チームへの影響」を重視するのが特徴です。

○AI時代になぜノーレイティングなのか

  1. 人間の創造性を最大化するから
    パフォーマンスの最大化には、安心・安全な心理的環境が必要ですが、MBOのランク付けは心理的安全性を壊しています。
  2. 「柔軟さと学習」が価値を持つ時代だから
    AIが数々の業務を代替して行く中、人間は「学び直し」「方向転換」が武器となります。MBOでは対応できません。
  3. コラボレーション重視の時代だから
    個人の達成ではなく、チームの共創・ネットワーク型組織への貢献がカギとなります。MBOでは対応できません。
  4. AIによって測れる「結果」より、測れない「人間らしさ」を育むから
    共感、倫理観、創造性は数値化できません。よって定性的・対話的な評価が必須となってきます。

つまりノーレイティングは、AI時代の人間の力を引き出す「進化系パフォーマンスマネジメント」手法なのです。

ノーレイティングの具体例・導入事例

■Adobe:人事制度「Check-in」の導入

従来の年次評価制度では、マネージャーが評価業務に多大な時間を費やしていました。​具体的には、1人の部下を評価するのに約8時間、全社で年間約8万時間が費やされていたとされています。​さらに、評価結果通知後に離職が増加する傾向があり、評価制度の見直しが急務となっていました。 ​

「Check-in」という新制度では、最低でも四半期に1回、マネージャーと従業員が1対1で面談を行います。これにより、継続的なフィードバックとコミュニケーションを促進します。​面談の記録は自由形式で、人事部への提出は不要とされています。これにより、形式にとらわれない自由な意見交換が可能となりました。また、マネージャーに部下の昇格や給与を決定する権限を与えました。これにより、迅速かつ適切な評価と報酬が実現されています。

この「Check-in」の導入により、Adobeでは離職率が30%減少したと報告されています。​また、マネージャーと従業員間のコミュニケーションが活性化し、社員のエンゲージメント向上にも寄与しています。 ​

■Microsoft:年次評価の廃止と継続的フィードバックの導入

従来の年次評価制度が社員のモチベーション低下や協力関係の阻害要因となっていることが指摘されていました。​特に、固定的な評価基準が急速に変化するビジネス環境に適合しないとの認識が広がっていました。

そこで、従来の年次評価を廃止し、社員のランク付けを行わないノーレイティング制度を導入しました。​上司と部下が定期的かつ随時にフィードバックセッションを行い、リアルタイムでの成長支援を重視しています。目標設定は固定的なものから、状況に応じて柔軟に目標を見直すアプローチに転換しました。 ​

具体的な数値は公開されていませんが、社員の満足度やエンゲージメントの向上が報告されています。​また、部門間の協力体制が強化され、組織全体の柔軟性と適応力が高まったとされています。

■Deloitte:パフォーマンスマネジメントの刷新

従来の評価制度は複雑で時間がかかり、評価プロセス自体が社員の負担となっていました。​また、評価結果が社員の成長や組織のパフォーマンス向上に直結していないとの課題がありました。 ​

現在は、プロジェクトごとにフィードバックを行い、社員の成長をサポートしています。評価プロセスを簡素化し、マネージャーの負担を軽減するとともに、より迅速なフィードバックを可能としています。​また、社員一人ひとりの強みを把握し、それを活かす配置やプロジェクトアサインを行っています。

新しい評価制度の導入により、社員のエンゲージメントが向上し、組織全体のパフォーマンスも改善されたと報告されています。​また、評価プロセスの効率化により、マネージャーの負担が軽減され、より戦略的な業務に集中できるようになりました。

このように、ノーレイティング制度の導入は、社員のエンゲージメント向上や組織の柔軟性強化に寄与することが示されています。​ただし、導入にあたっては、マネージャーのトレーニングや組織文化の変革が重要であることも指摘されています。

必要となるマネージャーの資質やトレーニング

「ノーレイティング」や「継続的フィードバック」の運用において、マネージャーには従来の「評価者」「監督者」ではなく、「コーチ」「メンター」「伴走者」への大きな変化が求められることになります。この仕組みが機能するかどうかは、制度よりも「マネージャーの質」にかかっていると言えます。そのため、制度の導入以上に「マネージャーの意識とスキルの変革」が不可欠となります。

○ノーレイティング時代のマネージャーに求められる資質

  1. コーチングスキル
    ・傾聴力:判断せずに話を受け止め、結論を急がない
    ・質問力:「あなたはどうしたい?」「どんな支援が必要?」というWill(意志)を引き出す問い
    ・相手の強みを発見し、活かす視点:フィードバックは弱点の指摘ではなく、強みを伸ばすためのもの
    ※「ティーチング(教える)」より「コーチング(引き出す)」の割合が大きくなります。
  2. フィードバックの質と頻度を高める力
    ・リアルタイムでのポジティブフィードバック:小さな行動変化や成功体験をタイムリーに称賛・強化する
    ・改善のための具体的フィードバック(建設的批判):感情的な否定ではなく、事実と期待を明確に伝える
    ・継続的・頻繁なフィードバック文化の醸成:年1回の評価ではなく、週1回の1on1や日常的な対話の中でフィードバックする
    ※AdobeやMicrosoftでも「継続的フィードバック」が成功要因とされています。
  3. 心理的安全性を高める力
    ・「間違えても大丈夫」という安心感を作る:アイデアを自由に出せる・挑戦できる空気感
    ・部下が自分の意見を言いやすい環境を整備:マネージャー自身が弱みを見せる、オープンに話す態度
    ※チーム全体の学習力やイノベーション促進の土台になります。
  4. エンゲージメントを高める力
    ・部下のキャリア志向・価値観に関心を持つ:「あなたは何を大事にしている?」「どんな未来を描いている?」
    ・成長機会を提供し、挑戦を後押しする:異動やプロジェクトアサインなど「ストレッチな機会」を与える
    ※Deloitteでは「社員の強みを活かす配置」が重視されています。
  5. 柔軟な目標設定とレビューのスキル
    ・状況に応じて目標を柔軟に見直す(アジャイル思考):OKRのように「短いサイクルで目標を調整」する力
    ・曖昧な状況でも前に進むための判断力:VUCA環境でも部下に「進むべき方向」を示すナビゲーター的力
    ※Microsoftでは「柔軟な目標のアップデート」が前提になっています。

○必要となるトレーニング・育成施策の具体例

  1. コーチング&フィードバックトレーニング
    ・基本的な「傾聴」「質問」「フィードバック」のフレームワークを習得
    ・ロールプレイ形式で練習し、行動変容を促す
    ※例えば、GROWモデル(Goal, Reality, Options, Will)などの活用が考えられます。
  2. 心理的安全性とインクルージョンの研修
    ・チーム心理の可視化(サーベイの導入)
    ・自分自身の「無意識バイアス」への気づきを促す
    ・アクションラーニング形式でチーム内対話を促進する練習
  3. アジャイルマネジメント&OKRワークショップ
    ・OKR(Objectives and Key Results)の策定方法
    ・短期サイクルでの目標レビューとフィードバック実践
    ・チーム目標と個人目標をリンクさせるノウハウ習得
  4. キャリア開発とタレントマネジメント研修
    ・キャリアカウンセリングの基本
    ・タレントレビュー(人材の見極めと配置)
    ・部下の「Will(やりたいこと)」と組織のニーズのマッチング支援
  5. デジタルツール活用の実践トレーニング
    ・AdobeならCheck-in、GEならPD@GEなど
    ・フィードバック・1on1記録のためのプラットフォーム活用
    ・データドリブンなパフォーマンス分析と改善策の立案

まとめ

MBOにありがちな「気がついたら低評価だった」「知らぬ間にランクダウン」をなくすのが、ノーレイティングです。MBOが「ふるい分け」のためのツールだったのに対して、ノーレイティングは「成長とエンゲージメント」のための評価と言えます。

「ノーレイティング」は決して「ノー評価」ではありません。「レーティング(格付け)をしない」というだけで、「評価そのものをやめる」わけではありません。むしろ、より本質的で、継続的なフィードバックや対話による「質の高い評価」が求められることになります。

つまり、「ノーレイティングは楽になる」わけではなく、むしろマネージャーの役割が「コーチ」「フィードバックの達人」になることは、継続的なコミュニケーションが必要となり、負荷は一時的に上がるでしょう。しかし、評価される側の「納得感」と「成長実感」が爆増するのです。

数値よりも「成長」「行動」「姿勢」を重視し、「何を達成したか」だけでなく、「どう達成したか(プロセス)」「チームへの影響」も評価されるため、評価が「未来志向」になる。この点こそが今の時代に強く求められる要素でしょう。

よく、「じゃあ、MBOのタームを短くすれば良くね?」という人もいます。勿論、MBOの運用を工夫することは大切ですが、例えば3カ月もかけずに本当に大胆な目標が達成できるでしょうか?数週間で達成できる目標は、おそらくただのタスクでしかないはずです。

BBDF 藤本