「観察力」と「再現力」 ー絵を描くということー

· Business,Art

■天才、ウィルトシャー氏が持つ「3つの能力」

世の中には、「ギフテッド(Gifted)」と呼ばれる、知的・創造的・芸術的な能力が平均を大きく上回る特別な才能や潜在能力を持つ人々がいます。いわゆる「天才」と呼ばれる存在です。

イギリスの建築画家スティーヴン・ウィルトシャー(Stephen Wiltshire)氏は、「カメラアイ(Camera Eye)」と呼ばれる特別な視覚的記憶能力で知られています。彼は建築物や都市の風景を一目見るだけでその詳細を記憶し、驚くほど正確に描く(再現する)ことができます。2005年には東京上空をヘリコプターで飛行し、その記憶を基に10メートルに及ぶ精緻なパノラマアートを制作しました。

この特殊能力の正確なメカニズムは未解明な部分が多いですが、以下の3つの能力が極めて高いことは明らかです。

1「記憶力」:膨大な情報を記憶し、効率的に処理する能力。
2「観察力」:対象を正確に把握し、細部まで捉える能力。
3「再現力」:観察したものを忠実に表現する能力。

これらの能力を徹底的に鍛え、極めれば、(少なくとも)理論上はウィルトシャー氏のような「カメラアイ」になることが可能かもしれません。

私自身も、子供の頃から絵を描くことが好きで、例えば興味のない授業中には必ず絵(落書き)を描いて遊んでいました。そのため、2「観察力」と3「再現力」については、自然に、ある程度は身についたと思っています。

ご参考までに、私の高校時代の国語の教科書をご覧ください、酷い有り様です(笑)。文豪たちがことごとくデッサン練習(という名の落書き)の餌食となっています!

教科書の落書き(高校時代)

■一般の人にできること

とはいえ、私たち一般人には限界というものがあります。「観察力」と「再現力」は向上させることができるとしても、最大の問題は、1の「記憶力」でしょう。「記憶力」は、絶対音感や反射的な運動能力、独創性などと並んで、後天的に身につけるのが難しい(少なくとも、先天的な要素が大きく関与する)能力の一つだと考えます。

しかし、冷静に考えると、通常の絵を描く場面では「記憶力」がそこまで必須とは限りません。たとえば、デッサン(素描、ドローイング)では、目の前にある物体の形態と明暗を観察し、それをそのまま画用紙上に再現すれば良いのですから。

絵を描く(少なくともデッサン)技術は、「観察力」「再現力」に関する理論を学ぶ(もしくは自然に身につける)ことで、確実に上達するのです。

静物画

例えば、上の静物をデッサンする際には次のようなポイントを意識します。

・りんごは左のボールの約10°右上、右のボールの約15°左下に位置する。
・りんごの直径は左のボールの約3倍、右のボールの約2.3倍。
・円錐の直径は花瓶の約1.2倍。
・円錐の頂点の角度は約35°。

これらの事実を正確に(親指を使ったりしながら)「観察」し、その結果を「再現」すれば良いのです。そこに天性のセンス的なものは、一切不要です。

実際、私の愛読書である『ビジネスの限界はアートで超えろ!』の著者である、増村岳史さん(ART&LOGIC社)のプログラムで理論を学べば、たった2日間で誰でも、劇的に、絵が描けるようになります。是非ご参照ください。

そして今、この「観察力」と「再現力」こそが、ビジネスにおいても極めて重要なスキルになっていると考えます。

■ビジネスにおける「観察力」と「再現力」の重要性

○「観察力」

  • 絵を描く際には、目の前の対象を細かく「観察」し、その特徴を捉えることが求められます。
  • 同様に、ビジネスでは、周囲の状況や市場動向、顧客ニーズ、競合他社の戦略を鋭く「観察する力」が重要です。
  • 「観察力」が高いと、変化を早期に察知し、適切なタイミングで行動を起こせます。これは、ビジネスの予測や戦略立案において大きな強みとなります。
  • 例えば、顧客の言動やフィードバックを細かく「観察」し、製品やサービスの改良に活かすことで競争優位性を築くことができます。

○「再現力」

  • 観察した対象を正確に「再現する力」は、絵を描く際に必要不可欠です。
  • ビジネスでも、計画や戦略を実行に移す際に「再現力」が問われます。
  • アイデアやビジョンを具体化し、計画を忠実に実行する能力は、プロジェクト成功の鍵となります。
  • 計画通りにプロジェクトを進行し、目標を達成するためには、細部まで意識を払うことが重要であり、それこそが「再現力」です。

例えば、採用試験で絵を描かせてみれば、その人の「観察力」と「再現力」を簡単に測定することができるでしょうし、既存社員に絵の描き方を学ばせることで、商品やサービスをより魅力的あるものに変革することも可能となるでしょう。勿論、経営者自身が「絵の描き方」を学ぶことの意義は、何よりも大きなものとなるはずです。

以前は油絵を描くことを趣味としていたのですが、最近は全く筆を手に取れていません。初めて油絵で人物画を描いてみようと思っています。モデルになっていただける方は、ご連絡ください(笑)。

BBDF 藤本