先日、GPT(General Purpose Technology=汎用技術)という言葉を始めて知りました(教えてもらいました)。一言で言うと「人々の生活に根本的な変革をもたらした革新的な技術」のことです。
長い人類の歴史において、このGPT(汎用技術)は、以下に挙げる「たった24個」しか存在しないとされています(参照リンク:総務省HP)。
1.植物の栽培
2.動物の家畜化
3.鉱石の精錬
4.車輪
5.筆記
6.青銅
7.鉄
8.水車
9.3本マストの帆船
10.印刷
11.蒸気機関
12.工場
13.鉄道
14.鋼製汽船
15.内燃機関
16.電気
17.自動車
18.飛行機
19.大量生産
20.コンピュータ
21.リーン生産方式
22.インターネット
23.バイオテクノロジー
24.ナノテクノロジー
ここでどうしても気になるのは、ChatGPT(こちらのGPTは、Generative Pre-trained Transformerの略で、先述の汎用技術とはまた別の意味です)に代表される生成AIは、このリストに25個目として加わるのか?ということです。
結論から言えば、確実に加わります。
GPT(汎用技術)の3つの条件と生成AI
スタンフォード大のティモシー・ブレズナハン教授やハーバード大のエリ・ヘルプマン教授が提唱する「GPT(汎用技術)」の定義には、以下の3つの条件があります。
①多様な産業で使われる
②継続的に改良される
③他の技術革新を促進する
生成AIは、これらの条件をすべて満たしています。既にソフトウェア開発、デザイン、ライティング、マーケティング、教育、科学研究など、あらゆる産業で活用されていますし、継続的な改良どころか、GPT-3からGPT-4、GPT-4.5、さらにはマルチモーダルAIへと、その進化のスピードは非常に速いものです。また、創薬、素材開発、シミュレーション、ロボット制御など、他の技術領域のブレークスルーを促していますから。
生成AIがもたらす「新たな生産革命」
リストにある蒸気機関や電気、インターネットなどは、生産性を劇的に向上させ、新しい産業革命を引き起こしました。生成AIも同じように、「知的労働の自動化」という新たな革命をもたらしている点で、これらのGPTと並ぶ存在になるはずです。特に注目すべきは、従来の技術革新が主に「肉体労働」の自動化を進めてきたのに対し、生成AIは「知的労働」「創造的作業」の自動化を推進している点です。これによって、正に産業革命に匹敵するインパクトを持つ、と言えるのではないでしょうか。
未来の社会構造を変える可能性
歴史的に、GPT(汎用技術)は社会の働き方、経済構造、価値観を根本から変えてきました。生成AIも同様に、以下のような大きな変化を生み出す可能性があります(もしくは既に生み出しています)。
- 労働市場の再構築
ブルシットジョブの消滅、クリエイティブな仕事の増加、自動化による失業リスクの拡大など、労働の本質は変わっていきます。 - 教育と学習の変革
これまでの「知識詰め込み型教育」「問いを解く力の重視」から、「AIを活用した学び」「問いを立てる力の重視」へと大きくシフトします。 - 知的活動の加速
研究・開発のスピードが飛躍的に向上し、科学技術の進歩がさらに加速します。 - 経済格差と分配の課題
AIが生み出す富をどう分配するかが大きな課題になってきます(ベーシックインカムの議論も活発化するでしょう)。
GPTはGPT!
以上のような理由によって、生成AIはGPT(汎用技術)リストの25番目に、確実に追加されます。
これまでのGPT(汎用技術)のリストと比べても、生成AIは明らかに革命的な技術です。社会全体、つまり我々の生き方に与える影響も、今想像している以上のものとなるでしょう。
新たなGPT(汎用技術)登場時の不安
このような「人類の転換期」に対して、不安を抱く人も多いでしょう。調べてみると、過去のGPT(汎用技術)登場時にも、「人々の仕事や生活がどう変わるのか?」という不安と期待が渦巻いたようです。
- 蒸気機関(産業革命):「機械が職を奪う!」
18~19世紀、蒸気機関による工業化が進み、農村から都市へ労働者が流入しました。工場労働が主流になり、伝統的な職人や手工業者が仕事を奪われる不安に襲われました。「機械が仕事を奪う!」という恐れから「ラッダイト運動(機械打ち壊し運動)」なるものが発生、織機や蒸気機関を破壊する労働者が登場しました。結果的には、工場労働が新たな主流になり、新しいスキル(機械の操作、管理)が求められるようになりました。 - 電気(第二次産業革命):「熟練工が不要になる!」
19世紀後半、電気が工場に導入され、手作業中心だった製造業が大幅に効率化されました。「組立ライン」が登場し、大量生産が可能になりました。当然、「職人の技術が不要になるのでは?」という懸念が広がりました。結果的には、単純作業の仕事が増えましたが、「電気技術者」「エンジニア」など、新たな専門職も登場しました。 - コンピュータ(第三次産業革命):「オフィスワークがなくなる!」
1960~80年代にかけて、コンピュータの普及が進み、事務作業のデジタル化が加速しました。ワープロ、表計算ソフト、データベースが登場し、紙ベースの作業が減少しました。そこにおいて、「タイプライターや計算仕事が不要になる」「事務職が消滅する」という懸念が広がりました。確かに一部の仕事は減りましたが、新たに「IT管理者」「プログラマー」「データアナリスト」などの職業が誕生しました。
このように、新たなGPT(汎用技術)が登場する度に、既存の仕事は代替されることになり、新たな専門スキル(新しい技術を活用できる人材)が求められることになります。今回の生成AIというGPT(汎用技術)の登場も、同様でしょう。実際、単純なオフィスワークは既にAIに代替され、代わりにAIを管理・活用するような、新たな職種が現れ始めています。これをチャンスと捉えるかピンチと捉えるかで、将来は大きく変わって来るのでしょう。
これからは、生成AIありきの人生となっていきます。このような、なかなか経験することのできない新たなGPT(汎用技術)登場によるエキサイティングな「人類の転換期」に、現役として働いていられることを、心から幸せに感じる今日この頃です。これからのAI時代、楽しんで行きましょう!!
BBDF 藤本