アルムナイネットワークとエンゲージメント強化で進める人的資本経営

取り残されつつある日本企業再興のカギとは?

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一気に取り残され始めた日本企業

2018年、日本の一人当たり労働生産性はOECD加盟38か国中21位と、まだ中位を保っていました。しかし、そこから急速に順位を落とし、2023年には32位、主要先進7か国中ダントツで最下位という有り様です。

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2018年は、RPAや自動化ツールによる生産性向上が注目された時期であり、その後のコロナ禍を経てワークテックや生成AIの普及が進んだ結果、多くの国では生産性が飛躍的に向上しています。にもかかわらず、日本はこの潮流に乗り遅れています。

この数字は、日本企業が経路依存性に陥り、「変わることができない体質」にあることを如実に表しています。改めてデータとして可視化された今、日本の将来に対して強い危機感を抱かざるを得ません。

HRのメガトレンド

メガトレンドとは、地球規模で起こる政治経済・社会的な大きな変化を指します。2024年現在、HRのメガトレンドは言うまでもなく生成AIの活用です。

HRのメガトレンドは、以下のような推移してきました。

  • 2018年~ 働き型改革
  • 2019年~ SDG's
  • 2020年~ ウェルビーイング
  • 2021年~ パーパス経営
  • 2022年~ ジョブ型雇用
  • 2023年~ 人的資本経営
  • 2024年~ 生成AIの活用

ここで注意すべきは、メガトレンドは単なるブームや流行ではなく、今後も継続して重要なテーマであるということです。特に「人的資本経営」は、2023年以降、単なるトレンドではなく、企業の持続的成長に不可欠な視点として定着しつつあります。

人的資本経営とは

人的資本経営とは、「人材」を「コスト」ではなく「資本(価値を生み出す源泉)」と捉え、企業の中核的な経営資源として戦略的に投資・活用する経営の考え方です。従業員の能力や意欲、知識や経験などの「人」の価値を最大化し、企業価値の向上や持続的な成長へつなげます。

これまで多くの日本企業では、「人件費=コスト」という発想が一般的でした。しかし、技術革新やグローバル競争の激化により、「ヒト」が企業の競争力の源泉であることが再認識されています。

2020年には経済産業省が「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」(通称「伊藤レポート2.0」もしくは「人材版伊藤レポート」)を発表しました。(出典:経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」

ここでは、持続的な企業価値向上のために「人的資本」の重要性が増しており、経営者は「人材戦略を経営戦略の中核に位置づけるべき」と提言されています。

なぜ「人的資本経営」が重要なのか?

現代は「無形資産の時代」と言われ、製品や設備といった「モノ」よりも、アイデアやノウハウ、創造力といった「ヒト」の力が企業価値の源泉となっています。DXの進展とともに、柔軟で学び続ける人材が必要不可欠です。

そのため、日本では2023年3月期より有価証券報告書における「人的資本情報開示」が義務化されました。ダイバーシティや人材育成、働き方改革などに関する情報開示が求められています。

この人的資本経営を推進する中において注目すべきキーワードが「アルムナイ(卒業生)」です。

「アルムナイ活用」×「人的資本経営」

そもそも伊藤邦雄教授が提唱する「人的資本経営」は、次の3つの観点で構成されています。

  1. 動的な人材ポートフォリオの最適化
    ・必要なスキル・知識を持った人材を柔軟に組み合わせ、事業戦略に適合させる
    ・社外人材も視野に入れた“越境型”の人材戦略が重要
  2. 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
    ・組織に多様性をもたらすことで、イノベーションの創出と企業価値向上に直結させる
    ・異なるバックグラウンドを持つ人々の知見を再統合して活かすことがカギ
  3. リスキル・学び直しによる人材の能力開発
    ・社員の成長が企業価値に直結する。人的資本の「質」を高め続ける仕組みが重要

アルムナイの活用は、実は上記3要素すべてに強力に作用します。人的資本経営の観点から体系的に整理してみると、以下のようになります。

  1. 動的な人材ポートフォリオの最適化
    ・アルムナイは即戦力でカルチャーフィットも理解している人材プールです。
    ・転職後に新たなスキルを得た人材を再度活用することで、組織の柔軟性を高められます。
    ・プロジェクト単位での協業、副業・兼業の形でも貢献可能です。
    ・社外のアルムナイネットワークを通じて、他企業・業界とのコラボや事業創出にもつながります。
  2. 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
    ・他社経験を経たアルムナイは、多様な視点とスキル、知見を持ち込む存在です。
    ・復帰・再登用だけでなく、外部アドバイザーや社外取締役としての起用も検討できます。
    ・異なる組織文化や価値観を学んだ彼らを、社内に「イノベーションの種」として還流させることが有益となります。
  3. リスキル・学び直しによる人材の能力開発
    ・アルムナイの存在は、現役社員にとってキャリア自律の良いロールモデルとなります。
    ・アルムナイネットワークを通じた学習コミュニティの形成も可能です。継続的な知識共有・アップデートが実現可能です。

また、アルムナイの活用は単なる人的資源管理ではなく、企業ブランドの強化(「辞めてもつながれる」「戻れる会社」という安心感)にもつながり、それは採用競争力の向上(「卒業生の活躍」が、求職者へのPR材料に)にも直結するでしょう。これらは、人的資本開示でのアピール(多様なキャリアパスや人材循環を開示情報に反映)にもなりますから、人的資本の質的向上+企業価値の向上という、人的資本経営のゴールに直結するのです。

「アルムナイ活用」の前提条件

しかし、アルムナイを正しく活用し、上記のような効果を創出するためには、前提条件があります。それは、言うまでもなく「退職時に企業と個人の関係性が良好であること」です。良好な関係性が築かれていない場合、制度は機能しません。

また、「良好な関係性が築かれていると、そもそも辞めない」という、「一休さんの頓智」的な日本特有の文化も考慮する必要があります。

その観点で、どう考えれば良いのかを整理してみることにします。

日本企業は「卒業」文化が薄い

欧米企業において、「雇用」は「企業と個人の関係はフェアな契約」であり、卒業はあくまでキャリアの一部、「出戻り」も一般的です。そのため、卒業後もプロフェッショナルな関係を継続することができています。

一方、日本企業は「家族主義」の文化が強く、「辞める=裏切り」という意識が根強く残っています。出戻りも「裏切り者が戻ってくる」的な印象を持たれやすいように思います(徐々に減ってきてはいますが)。

※欧米企業と日本企業のアルムナイ活用比較

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また、日本企業には、長期雇用や年功序列の文化があり、「辞めること=裏切り・失敗」という負のイメージが強いため、お互いに「卒業」が前提になっていることは稀(ずっといることが前提)です。「辞める理由は悪いことがあったから」という前提になりがちで、退職=マイナスイメージが染みついてると言えます。

そして、良好な関係性がある人ほど辞めづらくなります。義理・人情・仲間意識の文化が強いため、「辞めたら迷惑をかける」と自制しがちなのです。その結果、限界まで無理をしてから辞める、というパターンが多いのではないでしょうか。つまり、どうしても辞めるときは「嫌になってから」になりがちなのです。

日本で「卒業」文化を作る

アルムナイ活用を目指すなら、「辞め方(卒業のさせ方)」を企業文化として意識的に設計することが必須となります。ここでのポイントは「退職=ネガティブ」から「卒業=前向き」への転換です。

  1. キャリア自律を支援する文化
    まず、社員に「この会社で働き続けることが目的じゃなく、自分の人生を生きる」ことの重要性を認識させる必要があります。会社の外に行くことも「成長の一歩」である、と日常的に発信し、それを自然と捉える状況を整えます。
  2. 卒業=お祝いの機会
    退職は「惜しむ」場ではなく、「送り出し」「エール」を送る場、という意識に変革します。社内で「〇〇さんが新天地へ」と前向きに紹介する文化をつくるのです。退職予定者の存在を、退職ギリギリのタイミングまで隠したりする会社がありますが、その意識を改めるのです。実際に退職インタビューを発信するような先進的企業もあります(後述します)ので、参考とするべきでしょう。
  3. 出戻り・アルムナイ活用の実績を積む
    「一度辞めた人が戻ってきて成功した」「顧問として活躍している」といった実績を可視化し、「卒業しても関係が続く」ことを実例で見せることが重要です。アルムナイのネットワークに力を入れている企業には「ここで辞めても関係が続く」という安心感が存在しています。

「辞めづらい」と「戻りづらい」を同時に解消するアプローチ

まず「辞めやすさを作る」ためには「辞めても仲間」という文化を醸成することが重要です。卒業後の活躍をフォローし、社内で発信するなどの方策が考えらえます。

そして「戻りやすさを作る」ためには、まず「出戻りOK」を公にすることでしょう。これにより心理的障壁を減らすことができます。また、再入社時の待遇・役割を明確化することや、実際に「出戻りした人」が組織で成功しているストーリーを語ることも重要でしょう。

企業と個人の新しい関係性をつくる

人的資本経営は「人材は企業の所有物ではない」という前提で考えます。よって、これからの関係性は以下のようになるはずです。

○基本的関係
・AsIs:会社が人材を囲い込む
・ToBe:企業と個人は対等・共創の関係
○個人にとって「辞める」とは
・AsIs:退職=裏切り
・ToBe:卒業=次のステージへ
○企業にとって「辞める」とは
・AsIs:人材流出=損失
・ToBe:流動化=人的資本の循環

これが「雇用のライフサイクル全体で人的資本を活用する」ことにつながります。

「卒業文化」を作っている企業の具体事例

「辞め方」改革を通じて、アルムナイの活用や人的資本の循環を実現しようとしている、日本企業の1つがサイボウズです。

働き方改革に積極的なサイボウズは、「100人いれば100通りの働き方」を掲げています。雇用に対する柔軟な考え方は、「卒業生活用」と「出戻り歓迎」に象徴的に表れています。

  • 「退職インタビュー」を社内外で公開
    退職者の本音のインタビューを、自社のオウンドメディア(サイボウズ式)や社内で公開しています。何が理由で辞めたのか、どういうキャリアを目指すのかを正直に語ってもらうもので、それを「ポジティブな転機」として発信しているのです。これが、会社と個人の関係性が続いていくための前提を作る上で有効に作用しています。(参考リンク:「サイボウズを退職します」
  • 「卒業式」を実施
    最終出社日に、社内で「卒業式」と呼ばれる送り出しイベントを実施しています。会社から「卒業証書」を贈ることもあり、送別会よりも「卒業」というポジティブな節目として大切にされています。
  • 「卒業生との関係継続」
    卒業後も、アルムナイ向けのイベントや情報共有の機会を提供し続けています。また、業務委託やコンサルティングなどの形で卒業生がビジネスパートナーとして関わり続けるケースが多く、出戻り社員も珍しくありません。再入社した卒業生本人が、その経験をオープンに発信していることも、サイボウズならではの文化です。

その他の「アルムナイ活用」企業

  • アクセンチュア
    「アルムナイネットワーク」を長年運営しており(登録者は10,000人以上)、定期的にイベント・情報提供を行っています。卒業後もプロジェクト単位で業務委託契約をすることが普通にあり、アルムナイがスタートアップ創業する際には、アクセンチュアが出資・協業する事例もあると言われています。(参考リンク:Accenture Alumni Network
  • リクルート
    「卒業生」はリクルートの価値観を体現する“エバンジェリスト”と呼ばれています。独立・起業した卒業生と提携・再雇用することにも積極的で、アルムナイがベンチャーキャピタルや他社経営層になり、リクルートのパートナーになることも多いようです。卒業生を招いてのイベントやナレッジ共有会も一部で実施されているようです。
  • パーソルグループ(旧インテリジェンス)
    アルムナイネットワーク「パーソル・アルムナイ・ネットワーク」を運営しています。キャリア支援とパートナーシップ形成を両軸で提供し、卒業後の業務提携や採用支援を積極化しています。(参考リンク:パーソル・アルムナイ・ネットワーク

なぜ「卒業文化」が企業価値を高めるのか?

まず、「辞めても関係が続く」企業は働き手にとって魅力的に映ることによる、企業ブランディングの向上(採用力の向上により優秀な人材を集めることができることも当然含む)が挙げられます。そして、辞めても戻ってきやすい/業務委託しやすい構造は、人材循環の促進につながりますし、ダイバーシティやキャリアパスの多様性を開示することは、人的資本情報開示(人的資本経営)にも寄与します。

「退職=卒業」という価値観を根付かせた企業は、アルムナイ活用で人的資本を循環させています。サイボウズが、「退職を祝う」「卒業インタビューを公開する」ことで、前向きな文化をつくっているように、日本企業でもこの「卒業設計」が人的資本経営の重要テーマになってきています。

本当の退職理由を直視する

前述した通り、「アルムナイ活用」の大前提は、まず退職時に企業と個人の関係性が良好であることであり、そうでない場合はいくら制度を整えてもアルムナイを有効に活用するのは難しくなる訳ですが、では日本企業における「本当の退職理由」とは、一体どのようなものなのでしょうか。

  • 厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」出典リンク
    厚生労働省の調査では、離職理由として「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」を挙げる人が​男性8.1%、女性11.1%おり、労働条件への不満が離職の一因となっていることが示されています。
  • エン・ジャパン「本当の退職理由」調査(2024年)出典リンク
    エン・ジャパンの調査によれば、退職時に会社に伝えなかった「本当の退職理由」のトップは以下の通りであり、人間関係の悪化や職場環境への不満が退職の主要な要因であることがわかります。
    ​・職場の人間関係が悪い:​46%​
    ・給与が低い:​34%​
    ・会社の将来性に不安を感じた:​23%​
    ・社風・風土が合わない:​21%
    ・評価・人事制度に不満があった:​22%​
  • レクションアンドバリエーション「日本企業における離職の実態」出典リンク
    同社の調査によると、例えば男性の24歳以下では「職場の人間関係が好ましくなかった」ことが離職理由として高い割合を占めています。​若年層において人間関係の問題が離職の大きな要因であることを示唆しています。
    ・19歳以下:​18.1%
    ・20~24歳:​12.8%​
  • アデコ「新卒入社3年以内離職の理由に関する調査」出典リンク
    少し古い(2018年)調査なのですが、新卒入社3年以内の離職理由として、以下の項目が上位に挙げられており、業務内容の不一致や人間関係のストレスが離職の主要な要因であることがわかります。
    ・自身の希望と業務内容のミスマッチ:​37.9%​
    ・待遇や福利厚生に対する不満:​33.0%​
    ・キャリア形成が望めないため:​31.5%​
    ・長時間労働のため:​31.2%​
    ・上司や同僚との人間関係に関するストレス:​25.8%​
  • 退職代行サービスの利用増加
    (参照リンク:マイナビ「退職代行サービスに関する調査レポート(2024年)」
    近年、退職代行サービスの利用増加が話題となっています。その背景には職場でのハラスメントや退職の伝えづらさが挙げられます。​例えば、ある女性は上司からのパワハラにより直接退職を伝えることができず、退職代行サービスを利用したケースがあります。

これらのデータから、多くの退職者が職場の人間関係の悪化や労働条件への不満を理由に退職していることがわかります。​そのため、退職後に「もう前職とは関わりたくない」と感じる人が多いのも理解できるでしょう。​しかし、企業が職場環境の改善・見直しを行うことで、退職者との良好な関係を維持し、アルムナイ活用の可能性を高めることができるはずです。それこそが「人的資本経営」への第一歩です。

中小企業における職場環境の改善・見直し

「アルムナイ活用」の前提条件は職場環境の改善ですが、特に中小企業(オーナー経営者)の一部には、

「うちは問題ない(と思いたい)」
「辞めた人は裏切り者、気にしない」

みたいな、現実逃避や認知の歪みが強くあるケースが存在します。このように現実を直視する勇気がない限りは、何も改善されることはありません

そのような企業では、せっかくGPTW(参照リンク)やエンゲージメントサーベイを実施しても、

・課題を認識しない(数字を無視 or 言い訳する)
・課題を認めたくない(自分の経営や文化への否定に繋がるから)
・改善に着手しない(面倒くさいしお金もかかる)

…という悪循環が生まれやすいのです。

GPTWやエンゲージメント調査結果の「情報開示」義務化案

○現実を直視するための施策

ここで提案したいのが、GPTW(参照リンク)やエンゲージメント調査結果を開示することの義務化です。実現すればその意義は非常に高いものとなるはずです。勿論、ハードルは高いものの、人的資本情報開示がすでに始まっている流れを踏まえれば、次のステップとして「エンゲージメントスコアの開示義務化」はあり得るのではないでしょうか。

「開示義務」ができれば、嫌でも現実と向き合わされる企業が増えます。投資家や求職者が企業を選ぶ判断材料になりますし、透明性は企業価値にもプラスとなるはずです。

○現状と海外の動き

2023年から有価証券報告書に「人的資本情報の開示」が義務化されましたが、今は「人的資本への投資」「ダイバーシティ」「人材育成」などの取り組みがその中心であり、GPTWスコアやエンゲージメントサーベイの結果は現時点では「任意」となっています(サーベイ結果の開示義務は制度としてはまだ存在していません)。企業の裁量で出す/出さないが決められるため、「悪いスコアは黙殺」できてしまうのが現実です。

※2022年8月に内閣府が「人的資本可視化指針」で示している、具体的な人的資本の推奨開示項目は、以下の7分野19項目です。

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一方、グローバルでは「エンゲージメント開示」は当たり前になりつつあります。ISO 30414(人的資本の情報開示ガイドライン)では、「エンゲージメント」を測り、それを開示することを推奨しています。そのため、アメリカや欧州は、投資家のESG評価項目に「従業員エンゲージメントスコア」が入る場合が多く、「スコアの悪さ」が公になることが経営リスクになるため、改善せざるを得ない状況が構築されつつあります。エンゲージメントを上げることが、企業価値に直結しているのです。

○エンゲージメント開示義務化により起こる変化

ポジティブなものとしては、

  • 経営者が「見ざる聞かざる」できなくなる(現実に即した経営をせざるを得なくなる)
  • 求職者・投資家が企業を選びやすくなる
  • 透明性向上で企業の競争力が上がる

などが挙げられるでしょう。逆に、(企業にとって)ネガティブ?となり得るのは

  • 改ざんや数値操作リスク(更なるインチキが出てくる)
  • 数値だけよく見せて「実態が伴わない企業」が増える可能性
  • 「悪い企業」レッテルがつくリスク

などでしょうか。しかし、それらは健全な競争を行う上で通る一過性のものである気がします。

○個人的な見解

GPTWやエンゲージメントスコアの開示義務化は、日本企業の意識改革にとって絶対に必要だと考えています。「数値の開示=評価される」ことへの恐怖はあるでしょうが、都合の悪い事実を隠している企業は、確実に劣化し、やがては(健全に)淘汰されていくはずです。人的資本経営を本気でやるなら、「従業員の声」に透明性を持たせないと意味がありません。よって、人的資本情報開示の枠組みに「従業員満足度やエンゲージメント指標の義務開示」を加える動きは進めるべきであり、また、アルムナイに関する数値情報もいずれは開示するべきでしょう。今後、それらの実現に向けた動きを取って行こうと考えています。

中小企業のアプローチ

開示義務ができれば動く企業は増えることになりますが、義務化までいかなくても以下のアプローチは必須となるでしょう。

  1. エンゲージメントスコアを「経営指標」に組み込む
    財務と同じくらい大事な指標であることを認識し、KPIにしてしまうのが良いです。
  2. アルムナイ活用のために必要
    「良い会社のふり」ではなく、「実態を変えないと優秀な人が戻ってこない」ことを理解すべきです。
  3. 投資家・取引先からの要望
    「開示しないと評価されない」「取引に影響する」時代に入って行く可能性を認識すべきです。
  4. 採用競争力の低下は、「今いる社員の採用・定着にも直結する」
    特にエンジニアや専門職の採用は、エンゲージメントで選ばれる時代です。

最後に

伊藤邦雄教授は「人的資本経営の徹底実践以外に日本を救う道はない」「人的資本経営の重要性を理解できない経営者は、ご退場いただいた方が良い」とまで断言しています(昨年2月の講演より)。

冒頭で触れた通り、急速に取り残され始めていることがより明確となった今、日本企業には経路依存性から脱却し、人的資本経営を本気で実践することが求められているのです。

現実を直視し、変革を受け入れられるかどうか。未来はそこにかかっていると言えるでしょう。

BBDF 藤本